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ガラパゴス



武蔵野美術大学版画専攻三年生
池谷 奈保さん、稲岡 朱美さん、稲澤 水輝さん
三人展 開催中






2012年8月 / ロマン展(展示の様子
2013年3月 / ノイズ(展示の様子

池谷 奈保さんが先導するグループ展。
開催毎にメンバーを入れ替えたりと、
常に刺激的な展示会を見せて下さる。

2013年8月 / ガラパゴス

それでは今回の展示会をご紹介致しましょう。


稲岡 朱美さん
" 遠くにいるあなたへ "


木版画にて作品制作を行っている稲岡さん。

温かみのある線は、板を削り取るという行為によって生まれる訳ですが、
作る為・生む為に、「傷を付ける」版画という手法そのものが、
正に、感傷という心境を刻み込んでいるのではないか。



まず、実際に使用された版をご覧ください。
こちらの版を使用し、インクを載せ、プレス機にかけるなどして、
情景を素材に定着させることになるのだけど。

この、力強い彫りは刷り上がった作品よりも、
現実を直視する気がしてならないのです。
だから、刷り上がった作品より先にご紹介したかった。





稲岡さんのご実家は九州の宮崎県

作品には、ご実家九州の空気が多分に反映されていると
ご自身も考えていらっしゃるそうです。

私個人が想うのは、冬の早朝4時頃の朝と空気感
寒くて、吐き出す空気全てが白く曇り出して、
不透明になったガラス越しの情景。

物の輪郭は曖昧になり、より強く主張する線のみが形として認識される。





版にインクがのらなかった部分は、
版画用紙の地色が残ることになる。

稲岡さんの作品はインクをのせた場所が、
インクがのらなかった部分を削り取るようだ。

また、同じ版/異なる版を座標を変えて重ねて刷り上げた作品は、
どんどん、この世から離れて行く。

版が重なる場所。
そこは視覚的には隔たりとなるが、
同時に、見ている私を安心させてくれる。
作家の人柄が色濃い、優しい作品たち。


池谷 奈保さん


彼女の作品をDFGで拝見するのは今回で三回目になります。
こちらのリトグラフ、過去二回との大きな違いといえば、
やはり、差し色として飛び込んでくる赤橙/オレンジ色。

黒色のインクを侵してやる!といわんばかりの
鮮やかさを目にして、にやにやしてしまった。

それでも黒色は負けじと主張をする、負けん気が強い。



ここに居る生き物たちは、現存する生き物と想像の骨格の組み合わせであり、
いわばニュータイプである。

計三回の展示会を経て、私の中にあった「機械と人」という
池谷さんの作品イメージは、薄らいで、全く別の生き物に変わろうとしていた。

どんどん自由になってく。

形や常識、日常から解放され、
より住みやすく、居心地の良い場所を見つけたのかもしれない。

彼らの居場所、彼らの一挙一動が
私の頭の中を舞台に広がっていく。




どんな画材、どんなタッチで制作されていたとしても、
池谷さんの作品、人物は、真っ直ぐにひねくれていて。

可笑しくて。

でもすごく真面目だったりする。
今回はドローイング調のポストカードが数多く展示・販売されていて、
奇妙な者たちの日常を垣間見ることができる。

眺めつつ、これが異文化に触れる、という経験なのだなと思ったり。





そして、初めて作品を拝見したときからずっと変わらない。
池谷さんの作品は、シックな額が良く似合う。

変わるもの/変わらないものが、
観る側の波長/成長とシンクロしているのかもしれない。

だからこんなにも清々しい気持ちで鑑賞できるのだ、と。


また、彼女の作品は、大衆性を秘めている、と思っています。
画面を構成する一要素だけを切り分けても、
池谷 奈保さんの形になるから。
変な親しみやすさは失われないから。

描写自体は暗い印象を放っているけど、
見つめるうちに、不敵に笑っているとしか思えなくなる。

とか、文章を描いていたら欲しくなってしまったので、
最初にご紹介したリトグラフを購入してしまいました。


次の作品、変化が楽しみです。


稲澤 水輝さん


その場の空気を引っ掻き傷で確実に表現する。
凍てつくような寒さ、温度といった奥行きのある情報さえも、
線に置き換えてしまう、高い描写力をお持ちです、稲澤水輝さん。

生命を表現する為に、輪郭(外側の線)や内側の線が必要となるわけですが、
この線の取捨選択の思い切りが強烈な個性となり、画面を構成している。




写真のみだと伝わりにくいかもしれません。
今作品はまず、布地にシルクスクリーンで刷った上に、
刺繍を行うことで制作した作品です。

太さの異なる糸、ボタン、ビーズ、スパンコール。
インクだけでなく、物質を情景に置き換えている。

平面である写真では魅力をお伝えできないのがもどかしい。



続いてご紹介するこちらの作品。
木版画で蜘蛛の糸を刷った後に、本当の糸を這わせている。

版画という特徴的な表現をバックグラウンドにした後、
物質を前面に置き、具体性を強調させる。

支持体に針を突き立てて、
裏から表に貫通させ、傷付けるという手法は、
蜘蛛という生物に対する人間側のイメージや捕食行動そのものを想起させ得る。

裏表関係なく貫いてしまうこの手法は、
本能に従った行動原理の現れか、とまで思考は至る。



少しでも、奥行き/厚みをお楽しみ頂きたく、近距離から撮影してみました。

画面左奥に、照明の光を受けて鈍く光る蜘蛛が控えている。

この視点、私たちが居るのは蜘蛛から見て左手の位置です。
あれ、私たちの足がいつのまにか網に絡め取られ、動けない。

物質であることの強みがここで活きてくる。

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三人の若き版画作家による展示会。
8/8(木)までの公開です。
尚、最終日は17時頃公開終了となります。


(ぱんだ)