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wall-hand 『 wh 』

「 どこまでも一緒に行こう 」
I will go with you.
(2014)


目的を達する為、絵画表現だけに留まらず、
様々な素材を用いて鑑賞者の足元にまで
作品を忍ばせるその意欲的な姿勢からは、
第二回目の個展という事実を疑いたくなる。

wall-hand氏、二度目となる個展

『 wh 』

WEST : 2-E にて開催中








ぱっと視界に飛び込んで来るのは、
静脈と動脈を通る血液の色。
多くの書籍では動脈と静脈をわかり易く表現する為、
仮として「赤」と「青」で表記する場合が多い。
このイメージによる作用が展示会場という外側を皮膚とし、
体内を巡る血液と作品を対応させる。

脈々と流れる、色の鼓動。
ふと手首付近、血液を送り出すポンプを意識した。



「 Hemocyanin 」
(2014)

ヘモシアニン (Hemocyanin) は、呼吸色素のひとつ。
エビカニ等の節足動物イカタコ等の軟体動物に見られる。

青ければプール、川、海。
赤ければ凄惨な血の池だ。

思い出したのは、とある映画。
※映画名は→を反転『感染
事実は何も変わらずとも、
突然、色が変化してしまうだけで、
我々の世界は一変する。

フィルターを通してのみ、その光景を開示する手法は、
彼らの精神と視野を共有する手立てなのかもしれない。



「 Vegan 」
(2014)

Vegan=完全菜食主義 と名付けられた作品。

豚、牛、鶏。
彼等は私達の食料となる為に殺された。
お腹の空きや好奇心を満たしたいのだ。
だから舌なめずりする者も、買い物客も居る。

以前、屠殺場を撮影した写真集を見たことがある。
モノクロで撮影された風景からは、
殺された動物たちの悲鳴は全く聞こえなかった。

コンクリート壁にこびりついた黒い染み、
逞しい腕の筋肉や刺青が印象に残った。
色が失われると、現実は遠ざかる。

そこで現実に引き寄せる為に、スーパーのチラシのコラージュだ。
「彼等は100g単位500円で取引されている。」
食物が一層美味しそうに見える、赤色に満ちた場所で。



「 Fragments of the pain #2 」
(2013 - 2014)

度々ガラスを取り扱った作品が登場する、wall-hand氏の作品。
今作ではアクリル絵具、インクを塗布したガラス片が散乱する。
一度液に浸したのでは?と思う染まり具合。

元は何らかの器の体をなしていたはずのガラスは、
今ではゴミにも似た外見と作品としての役割を与えられた。

もし、いたずらに触れれば私達の皮膚を切り裂き、
流れ出る血液を自らの作品の内側に取り込もうとするだろう。

しかし、触れずとも作品を眺めただけで、
私達は何時かの痛みを思い出す。

そうだ、凶器としての用途も与えられている。



「 Homunculus 」
(2014)

ホムンクルス(ラテン語:Homunculus:小人の意)とは、
ヨーロッパの錬金術師が作り出す人造人間、及び作り出す技術のことである。

ドラえもんに「人間製造機」という話がある。
重大な欠陥商品であるひみつ道具「人間製造機」を用いて、
恐ろしいミュータントを製造してしまうお話。
そのことを久しぶりに思い出しながら、作品を鑑賞した。

補足が書き込まれた設計図の下、
青い溶液が満ちた瓶の中、
モンスターの外見をした生物がゴポゴポと音をあげて
常に空気を吐き出し続けていた。
ここでも静脈と動脈をのイメージが循環している。

何時の日か、赤と青を供給する必要が無くなり、
瓶の外側へ彼が這い出る日がやって来ることを想像したら...

どうしても、明るい未来が想像出来ない。



「 Pyrope 」
(2014)

苦礬柘榴石(くばんざくろいし、pyrope、パイロープ)は
ネソケイ酸塩の柘榴石群に属する鉱物の一種である。
パイロープの名称はギリシャ語の炎のように燃える赤を意味し、
ろうそくの明かりにかざしたときの色に由来する。

胸や臀部の膨らみを見るに、女性は何かを宿している。
切開された彼女の腹部から内側に向けて、
滑りのある赤黒い球体の粒が外溢れ出ている。

人の子では無い。

しかし切開されたまま、彼女は大変穏やかな表情で、
無事外側で出られたことを喜び、
球体の粒を祝福するかのようだ。

-この結果を事前に知っていたのか?
-未だ何も見ておらず、知りもしないのか?

作品として描かれた瞬間の前後には、
想像を絶する出来事の存在を可能にする
空白が用意されていてる。

鑑賞者のさじ加減一つで、ネガにもポジにも解釈可能だが、
事実は相変わらず、重石のように存在する、という構造がとても面白い。

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「どこまでも一緒に行こう」

同タイトルの作品の中で立ち尽くす少年。
彼の口角がわずかだが上がっていることで、
救われたような気がした。

それが地獄であっても。


wall-hand 『 wh 』
会期:2014.10.28 - 2014.11.3

(ぱんだ)